現地に行けない物件を、どう持つか。遠隔地の賃貸経営で決めておきたいこと
自宅から離れた場所にアパートを持つ、あるいはこれから持とうとしている。そういう方に向けた話です。
遠隔地の物件について語られるとき、多くは「買うべきか、買わざるべきか」という話になります。ただ、実際に持っている方、あるいは持つと決めた方にとって必要なのは、その手前の判断ではなく「現地にすぐ行けない状態で、どう回すか」という運用の設計です。
近年は、この設計の重要性が以前より増しています。人口減少がすでに現実になっている地域が多いこと、修繕費や人件費が上がっていること、借入金利が上昇していること。余裕が薄くなるほど、運用の巧拙が結果を分けるようになるからです。
本稿では、遠隔地の賃貸経営で決めておきたいことを、実務の順番に沿って整理します。
現地に行かずに、需要を確かめる
まず、物件がある地域の需要をどう把握するかです。年に数回しか行けないのであれば、行かなくても分かる情報を積み上げるしかありません。
公的な統計は、無料で誰でも見られます。
総務省が公表している住民基本台帳に基づく人口・世帯数は、市区町村ごとに毎年更新されます。国勢調査は5年ごとですが、年齢構成まで分かります。多くの自治体は、自前のサイトで町丁目単位の人口を月次や年次で公開しています。政府統計の総合窓口(e-Stat)からも横断的に探せます。
見るべきは、総人口よりも中身です。
単身向けの物件を持っているなら、20代から30代の人口がどう推移しているか。ファミリー向けなら、世帯数と子どもの数がどうか。世帯数は、総人口が減っていても単身化によって増えることがあります。この違いを押さえておくと、「人口が減っているから終わり」という粗い判断を避けられます。
あわせて確認したいのが、賃貸需要を支えている施設です。大学、大きな病院、工場、役所。こうした拠点が近くにあるかどうかで、需要の安定度は変わります。ただし拠点への依存は両刃で、工場の閉鎖や学部の移転が起きれば一気に効きます。ニュース検索でその施設の名前を定期的に確認しておくだけでも、備えは違ってきます。
競合は、ポータルサイトで数えられる
需要の次は供給です。ここも現地に行かずに把握できます。
主要な不動産ポータルサイトで、自分の物件と同じ最寄り駅・同じ間取り・近い家賃帯で検索してみてください。何件出てくるか。それが競合の数です。
数だけでなく、中身も見ます。募集条件はどうか。礼金ゼロ、フリーレント、仲介手数料無料といった条件が並んでいるなら、その地域は決まりにくい状態にある可能性があります。新築や築浅が多く出ているなら、供給が増えている局面です。
これを月に一度、同じ条件で検索して記録しておくと、変化が見えるようになります。件数が増えているのか減っているのか。同じ物件がずっと出続けているのか。数字を並べておけば、管理会社から「決まりにくい状況です」と言われたときに、それが地域全体の話なのか自分の物件だけの話なのかを判断できます。
自分の物件がきちんと掲載されているかも、同時に確認できます。写真の枚数、間取り図の正確さ、設備欄の記載。遠隔地の物件ほど、掲載が放置されていても気づきにくいところです。
管理会社を選ぶときに聞くこと
遠隔地の賃貸経営では、管理会社が現場のすべてです。ここの選定が、物件選び以上に効いてきます。
候補が複数ある場合、次のような点を聞いてみてください。
報告の頻度と形式。募集状況をどのくらいの頻度で、どういう形で報告してもらえるか。反響数や内見数まで出してもらえるか。写真や動画での現場報告に対応しているか。
緊急時の対応。設備の故障や水漏れが起きたとき、誰がいつ動くか。夜間や休日はどうなるか。オーナーへの連絡はどのタイミングで来るか。
修繕の判断ライン。いくらまでなら管理会社の判断で対応し、いくらから相談が来るのか。ここを事前に決めておかないと、小さな判断のたびに連絡が来て回らなくなるか、逆に知らないうちに工事が進むかのどちらかになります。
提携業者の範囲。原状回復、設備交換、外装工事。それぞれどこまで自社または提携業者で対応できるのか。対応できない工事はどう手配するのか。
地域によっては、そもそも選択肢が多くありません。それ自体は仕方のないことですが、選択肢が少ないと分かっているなら、なおさら最初の取り決めを丁寧にしておく価値があります。
相見積もりが取りにくい地域での頼み方
都市部であれば、工事のたびに複数社から見積もりを取って比較するのが基本です。ところが地方では、その工事に対応できる業者が数えるほどしかない、という状況が起こります。
相見積もりが取れないと、提示された金額が妥当かどうかを判断する材料がなくなります。ここへの備えとして、いくつかやれることがあります。
一つは、工事の内訳を出してもらうことです。総額だけでなく、何にいくらかかっているのか。材料費と施工費の内訳が分かれば、他の地域の相場と照らして極端に外れていないかは判断できます。
もう一つは、緊急でない工事をまとめることです。退去のたびに単発で発注するより、複数戸の原状回復や設備交換をまとめて依頼するほうが、単価の交渉余地が生まれます。遠隔地では現場に足を運ぶ回数も減らせます。
そして、値切りすぎないことです。対応できる業者が限られている地域で、毎回厳しく削っていけば、その物件は業者にとって割に合わない仕事になります。急ぎの対応が必要なときに後回しにされるという形で、結局は自分に返ってきます。適正な金額を払い、内訳の説明を求める。この距離感が現実的です。
修繕は、あらかじめ積んでおく
遠隔地の物件で怖いのは、想定していなかった支出が突然出ることです。現地に行けない分、状態の把握が遅れがちで、気づいたときには工事が大きくなっているということが起こります。
対策は単純で、あらかじめ積んでおくことです。分譲マンションの修繕積立金と同じ考え方を、自分の物件に対して自分で行います。
8戸のアパートで考えてみます。
外壁の塗り替えと屋根の補修に、10年で300万円かかるとします。年あたり30万円、月に直すと2万5,000円です。
給湯器の交換も見ておきます。1台15万円として8戸分で120万円。15年で全数を入れ替えるなら、年8万円、月に直すと約6,700円です。
この2つだけで、月におよそ3万2,000円。家賃5万円の部屋が8戸で月40万円の収入だとすれば、その約8%にあたります。
ここに、退去のたびの原状回復費、エアコンや給湯器の突発的な故障、外構や共用部の補修が加わります。実際にはもう少し厚く見ておく必要があるでしょう。
大事なのは、この積立を「収支がプラスだから大丈夫」という感覚ではなく、金額として別に置いておくことです。手元のキャッシュフローから引いた上で残る額が、その物件の本当の手残りになります。
現地に行く回数と、その使い方
まったく行かずに済むかというと、そうとも言えません。
年に2回、往復の交通費と宿泊で1回5万円かかるとすれば、年間10万円です。先ほどの物件(月40万円、年480万円の家賃収入)なら、収入の約2%にあたります。これも収支に入れておくべきコストです。
限られた回数で何を見るか。建物の外観と共用部の状態、周辺の競合物件の様子、そして管理会社の担当者と直接会うこと。この3つが優先度の高いところです。
特に、担当者と一度でも顔を合わせておくかどうかは、その後の対応の速さに効いてきます。遠隔のやり取りだけの相手と、実際に会ったことのある相手とでは、扱いが変わるのが現実です。
撤退ラインを、先に決めておく
最後に、これが最も忘れられがちな点です。
買うときには出口を考えていても、持ち始めると「もう少し様子を見よう」が続きます。特に遠隔地の物件は、日常的に目に入らないぶん、判断が先送りになりやすい傾向があります。
そこで、買う段階、あるいは今からでも、数字で撤退ラインを決めておきます。
入居率が何%を何か月下回ったら売却を検討するのか。年間のキャッシュフローがいくらを下回ったらどうするのか。大規模修繕の見積もりがいくらを超えたら、修繕せず売る判断をするのか。
売却を検討するとなったとき、地方の築年数が経った物件は、買主が使える融資の条件によって買える人が限られることがあります。すぐに売れるとは限らないという前提で、早めに動く必要があります。だからこそ、線を先に引いておくことに意味があります。
遠隔地の賃貸経営でやることリスト
ここまでを、手を動かせる形にまとめます。
1 物件がある市区町村の人口・世帯数を、公的統計で年1回確認する(総人口だけでなく、対象とする層の年齢構成まで)
2 主要ポータルで、同じ条件の競合が何件出ているかを月1回記録する
3 同時に、自分の物件の掲載内容(写真・間取り図・設備欄)を確認する
4 管理会社に、反響数・内見数・申込数を定期的に出してもらう
5 修繕の判断ライン(いくらから相談が来るか)を管理会社と取り決めておく
6 大規模修繕と設備更新の費用を、月額に均して別に積み立てる
7 現地訪問の費用を、あらかじめ年間の収支に入れておく
8 入居率とキャッシュフローで、撤退ラインを数字で決めておく
まとめ
遠隔地の賃貸経営は、危険でも安全でもありません。現地にすぐ行けないという制約を前提に、仕組みで補えるかどうかの問題です。
需要と供給は統計とポータルサイトで確かめられます。現場の状況は管理会社との取り決め方で見えるようになります。修繕は積んでおけば突発ではなくなります。行く回数が限られるなら、その回数で何をするかを決めておけばよい。
逆に言えば、これらを設計しないまま「利回りが高いから」という理由だけで持ってしまうと、制約がそのままリスクとして残ります。表示されている利回りの高さには、それだけの数字になる理由がある。その理由の多くは、運用でいくらか埋められる部分でもあります。
所有されている物件の運用や、管理会社から出てきた数字の読み方についてご不明な点があれば、お気軽にお問い合わせください。