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名義が親のままの実家を売るには 登記から測量までの手順と費用

売却の相談を受けた不動産会社が、現地を見るより先に手を付けている作業があります。その家が売れる状態にあるかどうかの確認、つまり登記簿上の所有者が誰になっているかの照会です。価格の話は、そのあとです。

ここで所有者の欄に二十年前に亡くなった祖父の名前が残っていると分かると、そこから先は測量でも査定でもなく、戸籍を集める作業から始まることになります。売り出しの案内を出せるようになるまで数か月、相続人の人数と関係次第では年単位かかることもあります。買いたいという人が現れてから調べ始めるのでは、まず間に合いません。

2024年4月に相続登記が義務になり、施行より前に起きた相続についても2027年3月31日という申請の期限が付きました。ただ、過料の話より先に効いてくるのは、動かしたいときに動かせないという実務のほうです。ここでは、名義の調べ方から、名義を直す段取り、かかる費用の見積もり、売ると決めたあとに出てくる作業、そして引き取り手のない土地の出口までを、実際に着手する順番で並べます。

不動産会社が最初に見るのは、家ではなく登記簿

媒介契約を結ぶ前に登記簿を確認するのは、売主として契約書に判を押せる人が誰かを特定しないと、そもそも取引が組み立てられないからです。所有者本人か、その正当な代理人でなければ、売買契約は成立しません。

ここでよくある行き違いが「親から任されているので自分が話を進めます」というケースです。親が健在で委任状があるなら問題ありませんが、名義人がすでに亡くなっている場合、生前に受けた委任は効力を失っています。代理権は本人の死亡によって消滅するためです。「実質的にうちが管理してきた家だから」という理由では、登記簿の名前は動きません。

貸す場合も入口は同じです。管理会社は管理委託契約を結ぶ前に、貸主が処分や賃貸の権限を持っているかを確認します。名義が固まっていない物件は、募集を掛ける以前の段階で止まります。売る、貸す、担保に入れる、取り壊して建て替える。どの選択肢を取るにしても、最初の関門はひとつです。

登記簿を引くには、住所ではなく地番がいる

いざ調べようとして最初につまずくのが、ここです。登記の世界で土地を特定するのは、郵便物が届く住所(住居表示)ではなく地番で、建物は家屋番号です。両者が一致している地域もありますが、住居表示が実施されている市街地ではまず一致しません。「〇〇町3丁目5番12号」を入力しても、登記の検索には掛かりません。

地番を調べる方法は三つあります。

1.固定資産税の納税通知書に付いている課税明細書を見る。所在地番と家屋番号、評価額が並んでいます。実家の書類の中から探すなら、これが最短です。
2.管轄の法務局に電話して地番を照会する。住居表示を伝えれば地番を教えてもらえる取り扱いになっています。手元に書類がなくても、住所さえ分かれば進みます。
3.ブルーマップを見る。住宅地図に地番を重ねて印刷した地図で、法務局や規模の大きい図書館に備え付けられています。

もうひとつ、見落とされやすい点があります。一戸建てだからといって土地が一筆とは限りません。過去の分筆の経緯で二筆三筆に分かれていることは珍しくなく、前面の私道の持分が別の筆として付いていることもよくあります。しかも私道は非課税として扱われていると、課税明細書に載ってこない場合があります。「明細に土地は一筆しかなかったから一筆だ」と決めてしまうと、売却の直前になって私道の名義が祖父のままだと判明する、という展開になります。地番が分かった時点で、法務局で公図(登記所備付地図)を取って周囲の筆を眺めておくと、この取りこぼしは防げます。

中身を見るだけなら330円、手続きに使うなら証明書

登記の内容を確認する手段は二通りあり、目的によって使い分けます。

ひとつは登記情報提供サービスです。インターネットで登記記録をPDFで取得できる有料サービスで、料金は2026年4月1日の改定後、不動産の全部事項が330円、所有者事項が140円、地図・図面が360円です。窓口へ行く必要がなく、その場で中身が読めます。まず現状を知りたいという段階では、これで十分です。

注意したいのは、ここで取れるPDFが証明書ではないことです。登記官の認証文が付いていないため、相続手続きの添付書類として法務局や金融機関に提出することはできません。提出用の書類として必要になるのは登記事項証明書のほうで、こちらは窓口請求で1通600円、オンラインで請求して郵送で受け取ると520円、オンラインで請求して窓口で受け取ると490円です(2025年4月改定)。

順番としては、所有者事項140円か全部事項330円で状況を把握し、手続きに入ると決めた段階で証明書を取る。最初から証明書を何通も取る必要はありません。

名義が二世代前で止まっていたときの手順、五つ

登記簿を見て、祖父母や、場合によってはさらに前の代の名前が出てきたとします。慌てて司法書士に電話する前に、全体の段取りを頭に入れておくと、見積もりの意味も分かるようになります。

1.誰が、いつ亡くなっているかを並べる。名義人が亡くなり、その相続人だった人も亡くなっている、といういわゆる数次相続では、死亡の順番が権利の流れを決めます。まずここを時系列にします。
2.相続人を戸籍で確定する。名義人の出生から死亡までの戸籍をすべてつなぎ、子の有無を確認します。「家族なんだから誰が相続人かは分かっている」という感覚と、戸籍から出てくる結果がずれることは実際にあります。
3.遺言があるかを確認する。公正証書遺言は日本公証人連合会の遺言検索システムで、全国どこの公証役場からでも照会できます。相続人などの利害関係人であれば検索自体は無料です。自筆証書遺言については、法務局の保管制度に預けられていないかを遺言書保管事実証明書(1通800円、全国どこの遺言書保管所でも請求可)で確認します。協議をまとめたあとに遺言が出てくると、やり直しになります。
4.遺産分割協議書を作る。相続人全員の合意、実印、印鑑証明書が揃って初めて成立します。
5.登記を申請する。ここまで来れば、あとは書類仕事です。

この五つのうち、時間を食うのは圧倒的に2と4です。そして2の部分については、2024年3月に取り扱いが大きく変わりました。

戸籍の集め方は2024年3月に変わった

従来、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍をたどるには、本籍地が動くたびにその市区町村へ請求する必要がありました。転籍を繰り返している方だと、郵便でのやり取りを何往復もして数か月、というのが普通でした。

2024年3月1日に施行された改正戸籍法により、戸籍の広域交付が始まっています。本籍地以外の市区町村の窓口でも、戸籍全部事項証明書・除籍全部事項証明書・改製原戸籍謄本をまとめて請求できるようになりました。最寄りの役所の窓口一か所で、遠方の本籍地の分まで受け取れる、というのがこの制度の効き目です。

ただし制約が四つあります。使う前に確認しておいてください。

1.窓口に本人が行く必要がある。郵送でもオンラインでも請求できません。
2.代理人は使えない。委任状による代理人請求も、法定代理人による請求も対象外です。
3.請求できるのは本人・配偶者・直系尊属・直系卑属に限られる。父母や祖父母、子や孫はたどれますが、兄弟姉妹やおじ・おばの戸籍は取れません。子のいない方の相続で兄弟姉妹が相続人になる場合、その部分は従来どおり本籍地へ請求することになります。
4.電算化されていない戸籍・除籍は対象外。古い手書きの除籍などは、いまも本籍地でしか出ません。

窓口では、運転免許証・マイナンバーカード・パスポートといった官公署発行の顔写真付き本人確認書類の提示を求められます。健康保険証だけでは請求できません。通数が多い場合はその場で受け取れず後日交付になることもあるので、窓口へ行くのは平日の早い時間帯にしておくと安全です。

集めた戸籍は、一覧図にして使い回す

戸籍が揃ったら、そのまま登記に持ち込む前に法定相続情報証明制度を挟むことを勧めます。集めた戸籍の束と、相続関係を一枚にまとめた図(法定相続情報一覧図)を法務局に提出すると、登記官の認証文が付いた写しを交付してもらえる制度です。

実務上の値打ちは、手数料が無料で、必要な通数を出してもらえる点にあります。戸籍の束は原本一式しかないため、これがないと銀行の解約、証券口座の移管、登記申請へ順番に回すことになり、それぞれの手続きが終わるのを待つ必要があります。一覧図の写しを複数通用意すれば、同時に走らせられます。

申出先は、被相続人の本籍地、被相続人の最後の住所地、申出人の住所地、被相続人名義の不動産の所在地、この四つを管轄する登記所のいずれかです。実家が遠方でも、自分の住所地の法務局で足りることが多い、と読み替えられます。申出は親族が代理できるほか、弁護士・司法書士・土地家屋調査士・税理士・社会保険労務士・弁理士・海事代理士・行政書士に依頼することもできます。

登録免許税の見積もりは、評価証明書1枚でできる

費用の見通しを立てる段です。相続による所有権移転登記の登録免許税は、不動産の価額の0.4%です。ここでいう価額は固定資産税評価額で、市区町村で取れる固定資産評価証明書に載っています。課税標準は評価額の合計から1,000円未満を切り捨て、算出した税額からは100円未満を切り捨てます。

実際に計算してみます。土地(宅地)の評価額が1,180万5,000円、建物が318万2,000円、そして前面私道の持分が4万2,000円という一戸建てを想定します。

まず私道です。不動産の価額が100万円以下の土地については、相続による所有権移転登記の登録免許税が免除されます(租税特別措置法84条の2の2第2項)。この措置の期限は2027年3月31日までです。4万2,000円の私道持分はここに当たるので、課税標準から外します。

残る宅地と建物で計算します。
1,180万5,000円+318万2,000円=1,498万7,000円(1,000円未満の端数なし)
1,498万7,000円×0.004=5万9,948円
100円未満を切り捨てて、5万9,900円。これが納める登録免許税です。

私道を課税標準に入れてしまうと、1,502万9,000円×0.004=6万116円、切り捨てて6万100円。差は200円と小さく見えますが、私道や山林の持分が何筆もある地域では効き方が変わります。なお、この免税は土地だけが対象で、建物には及びません。そして免税措置は自動では適用されず、申請書に非課税の根拠となる条項を記載しないと通常どおり課税されます。

もうひとつ、数次相続で効く免税があります。土地を相続した人が登記をしないまま亡くなった場合、その人を名義人とするための中間の登記については登録免許税が免除されます(同条1項)。こちらの期限も2027年3月31日です。祖父から父、父から子と二段階の登記が必要なケースでは、中間の一件分が浮くことになります。

これらは税金部分の話で、司法書士に依頼する場合の報酬は別に発生します。報酬額は事務所ごとに幅があり、筆数や相続人の人数、戸籍収集を含めるかどうかで変わるので、見積もりの段階で「登録免許税と実費と報酬の内訳」を分けて出してもらうと比較できます。

売ると決めたあと、登記の次に出てくるもの

名義が自分に移れば売れる状態にはなりますが、契約までにはもう少し作業が残ります。相続した家は自分が住んだことのない家であることが多く、ここが自宅の売却と決定的に違うところです。

境界の確定。土地の売買では、隣地との境界を確認したうえで引き渡すのが一般的です。確定測量には隣接する土地の所有者の立会いと署名が要ります。ここで問題になるのが、名義が古いまま放置されていた土地の隣は、同じように名義が古いままである場合が多いことです。相手方も相続人を探すところから始まると、測量の完了まで数か月単位で延びます。売ると決めた時点で、測量の依頼だけは先に出しておくのが実際的です。

越境の処理。ブロック塀、庭木の枝、屋根の庇、給排水管。長く手を入れていない家ほど、どちらかに越境しています。撤去まで求めず、建て替えの際に是正するという内容の覚書を隣地所有者と交わして引き渡すのが実務上の落としどころです。ここでも相手方の名義が問題になります。

私道の通行掘削承諾。前面が私道で持分を持っていない場合、買主が水道管を引き直すのに私道所有者の承諾が要ります。承諾書が取れるかどうかで買主の資金計画が変わるため、早い段階で確認しておく項目です。

残置物。家財、仏壇、物置の中身。空き家のまま引き渡す場合、どこまで撤去するかを契約前に決めます。仏壇や神棚は処分の方法を家族間で先に相談しておかないと、引き渡し直前で止まります。

設備の状態の申告。売主は物件状況報告書や付帯設備表で、雨漏り・シロアリ・給湯器の状態などを申告します。相続で取得した家は売主自身が実態を知らないことが多いのですが、その場合は「不明」と書くのが正しい対応です。分からないことを「異常なし」と書いてしまうと、引き渡し後の紛争の火種になります。

引き取り手のない土地には、国庫帰属という出口がある

売ろうとしても買い手が付かない、というケースもあります。山林、農地、需要の細ったエリアの宅地。この場合の選択肢として、2023年4月27日に始まった相続土地国庫帰属制度があります。相続または相続人に対する遺贈で取得した土地を、審査を経て国に引き取ってもらう仕組みで、制度の施行前に相続した土地も対象です。共有地の場合は共有者全員で共同申請します。

費用は二段階です。申請時に審査手数料が土地一筆あたり14,000円、収入印紙で納めます。この手数料は、申請を取り下げた場合も、却下・不承認になった場合も戻ってきません。承認された場合はさらに負担金を納めます。国が10年間管理するのに要する標準的な費用に相当する額で、原則は20万円ですが、市街化区域や用途地域が指定されている区域内の宅地、および森林などは面積に応じて算定され、20万円を超えることがあります。

山あいの土地を二筆申請し、隣接していて同じ区分だったため一筆とみなす申出が認められたとします。審査手数料は14,000円×2筆=2万8,000円、負担金が原則額の20万円で、合計22万8,000円。固定資産税と管理の手間を将来にわたって手放す対価として、この額をどう見るかという判断になります。

ただし、この制度には引き取ってもらえない土地の条件が細かく決まっています。特に押さえておきたいのが次の点です。建物が建っている土地は申請の段階で却下されます。抵当権などの担保権や、地上権・賃借権のような使用収益権が設定されている土地も同様です。そして境界が明らかでない土地も却下事由です。土壌汚染がある土地も受け付けられません。承認の段階でも、管理に過分な費用や労力がかかる崖地、除去が必要な地上・地下の工作物がある土地などは不承認になります。

つまり実家そのものをこの制度で手放そうとすると、先に建物を解体する必要があります。解体費用と負担金を合算した額と、安値でも売れる可能性を並べて比べる、というのが現実的な検討の仕方です。境界が問題になる点も、前の節で触れた確定測量と同じところに戻ってきます。

順番を間違えなければ、ほとんどは事務作業

ここまで並べた作業は、ひとつずつ見れば特別に難しいものではありません。厄介なのは、順番を飛ばすと後戻りが発生することです。相続人を確定する前に協議を始めれば作り直しになり、遺言の確認を後回しにすれば同じことが起きます。境界の確認を売買契約のあとに始めれば、引き渡し日が動きます。

そして、どの作業も関係する人数が増えるほど時間が延びます。名義を放置している間に相続人がさらに亡くなれば、その人の相続人が加わります。人数が減ることはありません。

今日できることは、二つだけです。実家の固定資産税の納税通知書から課税明細書を1枚探して、所在地番を控えること。そして、その地番で登記情報を1件取ってみること。所有者事項なら140円、全部事項でも330円です。所有者の欄に誰の名前が入っているかが分かれば、この記事のどこから読み直せばいいかも決まります。

名義が何代も前で止まっていた、相続人が十数人いる、隣地の所有者と連絡が取れない。そうした状況が見えてきた場合でも、進め方の順番は変わりません。手続きの見通しや、売る・貸す・手放すのどれが自分の物件に合うかを整理したい場合は、登記情報と固定資産税の課税明細書をお手元にご相談ください。現状の書類を見れば、どこから着手すべきかはかなり具体的にお伝えできます。

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