実家を相続したら。分け方を決める前に確かめる使い道と、10か月の期限
親が亡くなり、実家が空き家になる。きょうだい3人で相続することになったが、誰も住む予定はない。売るのか、貸すのか、しばらく置いておくのか。
この判断を先送りしたまま、とりあえず名義だけ3人の共有にしておく。実務でよく見る選択であり、そしてよく後悔につながる選択でもあります。分け方を決める前に、その建物と土地をこの先どう使うのかを決めなければ、正しい分け方は出てきません。そして使い道を決めるには、その前に売れる状態なのかを確かめる必要があります。
まず集める、5つの資料
話し合いに入る前に、次の5つを手元に揃えてください。「売れるのか」「いくらになるのか」という前提が共有できていないまま分け方だけ議論しても、まとまりません。
1. 登記事項証明書
土地と建物それぞれについて取得します。所有者が誰になっているか、抵当権が残っていないかを確認します。祖父母の名義のまま登記が動いていない、という事例は今も珍しくありません。この場合、先代の相続からやり直す必要が出ます。
2. 固定資産税の納税通知書
課税明細に、その方が所有する不動産が一覧で載っています。本人も家族も忘れていた土地が、ここで見つかることがあります。
3. 名寄帳、または所有不動産記録証明書
名寄帳は市区町村ごとに、その人が所有する不動産をまとめた帳簿です。固定資産税がかからない私道などは納税通知書に載らないことがあるため、こちらで拾います。実家の前の私道が近隣との共有になっているケースは多く、見落とすと売却時に買主の融資で問題になることがあります。窓口で請求する際は、単独名義分と共有名義分が別の帳簿になっている自治体が多いので、「共有分も」と伝えてください。
なお2026年2月から、法務局で所有不動産記録証明書を請求できるようになりました。相続人が請求すれば、被相続人が所有していた不動産を全国分まとめて確認できます。市区町村をまたいで不動産を持っていた可能性があるなら、こちらのほうが早く済みます。
4. 境界の状況
境界標が現地にあるか、隣地との間に越境物がないか。売却する予定があるなら、確定測量が必要かどうかを早めに把握してください。官民境界の確定を伴う場合、数か月から半年以上かかることがあります。
5. 建築確認済証と検査済証
増築して確認申請を通していない箇所がないかも確認します。検査済証がない物件は、金融機関によって取扱いが分かれ、買主の選択肢が狭まります。売れないと決まるわけではありませんが、価格交渉の材料にはなります。
分け方より先に、使い道を決める
資料が揃ったら、次の分岐は「住み続ける人がいるかどうか」です。
住み続ける人がいる場合は、その人が単独で取得するのが原則です。共有にすると、後で持分を精算するときに余計な費用と手間がかかります。住んでいる人が他のきょうだいの持分を買い取る形になり、その時点の時価で評価し直すことになるためです。最初から単独で取得し、他のきょうだいには預貯金や生命保険で調整するほうが、多くの場合は安く済みます。
配偶者が残っている場合には、配偶者居住権という選択肢もあります。2020年4月から使えるようになった仕組みで、自宅の権利を「住む権利」と「所有する権利」に分け、配偶者には住む権利を、子には所有する権利を渡します。配偶者は住み慣れた家に住み続けられ、そのぶん預貯金を多く受け取れます。所有権をまるごと配偶者が取得すると取り分を使い切ってしまい、生活費が残らないという事態を避けられます。
住み続ける人がいない場合は、次に「売るのか、活用するのか」を決めます。
売って現金にするなら、共有名義でも構いません。売却代金を持分どおりに分ければ済むためです。ただし売却の意思が全員一致していることが前提になります。
建てる、貸す、といった活用をするなら、一人、あるいは親子といった縦の関係に集約すべきです。きょうだいやいとこで横に広がる共有にすると、意思決定のたびに全員の足並みを揃えることになり、時間が経つほど動かしにくくなります。
共有名義が、次の代で動かなくなる仕組み
共有不動産は、行為の種類によって必要な同意が変わります。
売却や取り壊しといった処分行為には、共有者全員の同意が要ります。管理行為は持分の過半数で決められますが、ここには期間の制限があります。賃貸借契約の締結が過半数でできるのは、建物なら3年、土地なら5年を超えない短期のものに限られ、それを超える期間の契約は全員の同意が必要です。また2023年4月の民法改正で、形状や効用の著しい変更を伴わない「軽微変更」は持分の過半数でできることが明確になりました。大規模修繕がこれに当たるかは、工事の内容によって判断が分かれます。
実務で効いてくるのは、売却に全員の同意が必要だという点です。3人のうち1人が「まだ売りたくない」と言えば止まります。
そして時間が経つと、共有者自身に相続が発生します。3分の1の持分を持っていた人が亡くなり、その子ども2人が引き継げば6分の1ずつ。さらに次の代で分かれれば12分の1です。世代を重ねるごとに共有者は増え、面識のない親族が権利者に加わっていきます。
ここで補足しておくと、かつてはこうなると完全に手詰まりでした。今は2023年4月の改正で、所在等が不明な共有者がいる場合に、裁判所の手続を経てその持分を取得したり、第三者へ譲渡する権限を与えてもらったりする道ができています。共有物分割請求という手段も従来からあります。ただし、いずれも時間と費用がかかります。出口があることと、そこを通りたいかは別の話です。
共有を選ぶ前に確認してほしいのは次の3点です。この不動産を最終的に現金化する合意が全員にあるか。あるとして、いつまでに実行するか。その期限までに1人でも意思を変えた場合、誰がどう買い取るか。ここまで詰められないなら、共有は避けたほうが無難です。
「誰が相続するか」で、税額が変わる
実家の相続で大きく金額が動くのが、小規模宅地等の特例です。被相続人が住んでいた自宅の敷地は、330㎡までの部分について評価額が80%減額されます。
効き方を数字で見てください。自宅の土地が200㎡で相続税評価額5,000万円、建物が500万円、預貯金が1,500万円。財産の合計は7,000万円です。相続人が3人なら基礎控除は4,800万円ですから、そのままでは2,200万円が課税対象になります。
土地は200㎡で330㎡の枠内に収まるため、特例が使えれば全部が減額の対象です。評価額は5,000万円×20%で1,000万円となり、4,000万円が減ります。財産の合計は3,000万円で基礎控除を下回り、相続税額はゼロになります。
問題は、この特例が誰でも使えるわけではないという点です。
配偶者が相続する場合はほぼ無条件で使えます。同居していなくても、その後に売却しても適用できます。
同居していた親族が相続する場合は、相続開始の直前から相続税の申告期限まで、その家に住み続け、かつ所有し続けていることが必要です。申告期限前に売ってしまうと使えません。
別居していた親族にも適用できる場合がありますが、被相続人に配偶者や同居の相続人がいないこと、相続人自身が一定期間持ち家に住んでいないことなど、複数の要件を満たす必要があります。
つまり、冒頭に置いたような「きょうだい3人が全員それぞれの持ち家に住んでいて、誰も実家に住む予定がない」というケースでは、この特例はまず使えません。先ほどの例でいえば、2,200万円が課税対象として残ります。空き家になった実家の相続で、いちばん見込み違いが起きやすいのがここです。
もうひとつ、配偶者が相続する場合には配偶者の税額軽減が働きます。取得額が1億6,000万円までであれば相続税はかからず、法定相続分のほうが大きければその金額までが非課税です。実家を母親が相続する形にすると、この軽減で税額が消える場合があります。
そして重要な注意点があります。小規模宅地等の特例も配偶者の税額軽減も、相続税の申告書を提出してはじめて適用されます。特例を使った結果として税額がゼロになる場合でも、申告そのものは必要です。「かからないなら何もしなくていい」と考えて放置すると、特例が認められず、本来の税額に加えて無申告加算税と延滞税を負うことになります。
売るなら、3年以内かどうかで変わる
誰も住まない実家を売却する場合、小規模宅地等の特例とは別に、譲渡所得の側に使える制度があります。被相続人居住用家屋等を売ったときの3,000万円特別控除、いわゆる空き家の特例です。
一人暮らしだった被相続人の自宅を相続し、一定の要件を満たして売却した場合、譲渡所得から3,000万円を控除できます。ただし相続人が3人以上いる場合は、1人あたり2,000万円に縮減されます(2024年1月1日以後の譲渡)。きょうだい3人で相続した今回のケースは、まさにこれに当たります。
期限が2つあります。ひとつは売却の時期で、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る必要があります。相続税の10か月とは別の、こちらのほうが実際の売却判断を縛る期限です。もうひとつが制度自体の適用期限で、2027年12月31日までの譲渡が対象とされています。
要件も細かく定められています。1981年5月31日以前に建築された家屋であること、区分所有建物でないこと、相続の開始直前に被相続人が一人で住んでいたこと。旧耐震の家屋については、耐震改修をするか取り壊してから売る必要がありますが、2024年以降は買主が譲渡の翌年2月15日までに行う場合も認められるようになりました。
適用できるかどうかは個別の判断になりますので、売却を検討する段階で税理士に確認してください。ただ、期限があることだけは早めに知っておく価値があります。「しばらく様子を見よう」と置いているうちに3年が過ぎると、選択肢がひとつ消えます。
10か月の期限と、3年の期限
相続税の申告と納付の期限は、相続があったことを知った日の翌日から10か月以内です。この期限までに遺産分割協議がまとまらないと、いくつもの不都合が重なります。
まず、小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減が使えません。どちらも誰が何を相続するかが確定していることが前提の制度だからです。次に、いったん法定相続分で分けたものと仮定して申告し、納税する必要があります。手元に現金がなければ、自分の財布から出すことになります。
期限を過ぎればペナルティも発生します。納付が遅れれば延滞税。申告した税額が本来より少なければ過少申告加算税として、不足分に10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%)。そもそも申告しなければ無申告加算税として、50万円までは15%、50万円超300万円以下は20%、300万円を超える部分は30%が加算されます。仮装や隠蔽があったと判断されれば重加算税として35%(無申告の場合は40%)です。
救済手段はあります。申告期限までに「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておけば、その後3年以内に分割が成立した時点で特例を適用し、更正の請求ができます。この請求には、分割が成立した日の翌日から4か月以内という期限があります。いったん納税してから還付を受ける流れになるため、資金の手当ては必要です。3年を過ぎてもなお分割できない事情がある場合は、承認申請によって期限を延ばせる仕組みもあります。
期限はもうひとつあります。相続登記の申請です。2024年4月1日から義務化され、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければなりません。正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料の対象になります。施行前に起きた相続も対象で、この場合は施行日か取得を知った日のいずれか遅いほうから3年以内、つまり2027年3月31日が期限です。祖父母名義のまま止まっている不動産に心当たりがあるなら、この日付を意識してください。
遺産分割がまとまらない場合の受け皿として、相続人申告登記という手続きがあります。自分が相続人であることを法務局に申し出ておくもので、申請義務を一時的に果たしたことになります。ただし義務を果たしたことになるのは申し出をした本人についてだけで、他の相続人の分は別です。また分割が成立したら、その日から3年以内に本来の相続登記が必要になります。
あわせて、2026年4月から住所等の変更登記も義務化されています。引っ越しなどで住所が変わってから2年以内に申請が必要で、こちらは5万円以下の過料が定められています。親の登記上の住所が何十年も前のままというケースは実家の相続で頻出しますので、登記事項証明書を取ったときに確認しておいてください。
売ると決めたあとに出てくる、引き渡しの実務
賃貸中の物件を相続して売却する場合、住んでいる方がいるまま所有者だけが変わります。いわゆるオーナーチェンジです。ここで手続きを落とすと、引き渡し後にもめる原因になります。
賃貸人が変わったこと自体は、対抗要件を備えた賃借人がいる不動産が譲渡されれば当然に移転します。ただし、そのことを賃借人に対抗するには所有権移転登記が必要です。実務では二重払いを防ぐため、引き渡し日を基準に旧所有者と新所有者の連名で通知を出すか、管理会社が代わって案内するのが一般的です。
預かっている敷金は、返還する義務ごと新しい所有者へ引き継がれます。決済のときに売買代金から敷金相当額を差し引いて精算するのが通例ですので、部屋ごとの預かり額を正確に出しておく必要があります。なお礼金は承継されません。ここを混同する売主が少なくありません。
家賃と固定資産税・都市計画税の日割り精算も必要です。固定資産税の納税義務者は、あくまで1月1日時点の所有者です。日割りでの精算は当事者間の取り決めであって法律上の義務ではありません。起算日を1月1日とする地域と4月1日とする地域があり、金額が変わりますので、契約前に売買契約書でどちらを採るかを確認してください。
管理会社との契約も引き継ぎの対象です。新しい所有者が別の管理会社に切り替える場合、解約予告の期間が定められていることがあります。引き渡し日から逆算して、いつまでに通知が必要かを管理委託契約書で確かめておきます。
ほかに引き継ぐものとして、賃貸借契約書の原本、入居者名簿、鍵、保証会社との契約、火災保険の扱いがあります。売ると決めてから慌てて探すより、資料を集める段階でまとめておくほうが早く進みます。
先送りしていい判断と、してはいけない判断
買い手が付きにくい時期だから、というだけの理由で売却をやめるのは、判断としては弱いものです。維持にかかる費用と、待つことで得られるものを比べたうえでなら、時期を選ぶ判断は十分に合理的です。この種の判断は先送りが効きます。
逆に、先送りしてはいけないものもあります。ひとつは、建物の劣化に関わる支出です。雨漏りや配管の不具合は、放置している間に費用が増えるだけでなく、建物の価値そのものを削ります。ふたつ目は、登記の状態の確認です。先代名義のまま止まっているなら、関係者が少ない今のほうが確実に楽です。みっつ目は、期限のある制度の把握です。
相続には期限のある制度が並んでいます。相続税の申告が10か月、相続登記が3年、空き家の特例は相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日。判断そのものは急がなくても、期限だけは先に押さえておいてください。
お持ちの不動産について、今の状態で売れるのか、いくらぐらいになるのか、分けるとしてどういう方法があるのか。登記事項証明書と固定資産税の納税通知書をご用意いただければ、現在の状況を整理してご説明します。相続税額の試算や税務のご相談については、提携する税理士がお受けします。