Column

コラム

大規模修繕の談合は「発注手順」のどこで起きたか。理事会・一棟オーナー・売主それぞれの実務チェックリスト

国土交通省が「発注者たる管理組合の利益と相反する立場に立つ設計コンサルタントの存在」を文書で指摘したのは、2017年1月27日付の通知でした。安いコンサル料で仕事を取り、バックマージンを払う施工会社に受注させる手口が、そのとき既に別紙の事例として書かれています。それから9年半あまり経った2026年9月28日、公正取引委員会は関東の171件の大規模修繕工事について、設計コンサルタント2社と施工業者40社の独占禁止法違反を認定しました。注意喚起の文書が出ても、現場の発注手順が変わらなければ同じことが起きる。今回の事件が示したのは、その一点だと思います。

この記事は、これから大規模修繕を発注する管理組合の理事・修繕委員、管理組合を持たない一棟アパート・マンションのオーナー、そして区分所有の住戸をこれから売る方に向けて書いています。談合がどういう仕組みだったかを「発注の手順」に置き直し、どの手順で何を確認すれば防げるのかを、公取委と国交省の資料に沿って具体的に並べます。

金額の例は48戸・築26年のマンションで2回目の大規模修繕を迎える、という設定で統一します。設定上の数字と、公的資料から取った数字は本文中で区別して書きます。

公取委の命令書を「手順書」として読む

公取委が認定した違反の仕組みは、命令書の記載を追うと3つの手順に分解できます。第一に、設計コンサル業者が業務の過程で知った「設計予算」、つまり管理組合が内々に決めた発注予定金額を、受注予定者に伝えていたこと。第二に、見積り合わせに参加する施工業者が管理組合に出す見積価格を、受注予定者がコンサルと協議して決めていたこと。第三に、受注予定者以外の施工業者は、連絡された価格で見積書を出すか、参加そのものを見送っていたこと。この3つがそろうと、管理組合の手元には「複数社から取った見積書」が形としては並びますが、中身は1社が書いた数字です。

対象は東京都と神奈川・埼玉・千葉・茨城・栃木・群馬の1都6県、管理組合がリノシスコーポレーションまたは翔設計に設計コンサル業務を委託していた工事です。違反事業者は実数で42社、排除措置命令は38社、課徴金納付命令は37社で総額16億3,788万円。違反行為は遅くとも2021年9月(翔設計案件は同年11月)から始まっていたと認定されています。また、受注した施工業者が請負契約金額の一定割合をコンサルに「手数料等」として支払っていた事実も確認され、公取委はこの点について、全国マンション改修設計コンサルタント協会、マンション計画修繕施工協会、日本塗装工業会の3団体に会員への周知を申し入れています。

国交省は処分当日の9月28日に相談窓口の周知文書を出し、翌29日には「マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会」の設置を発表しました。第1回は10月19日に予定されており、管理組合が留意すべき事項と、適切な事業者を確保する方策が議題です。制度としての手当てはこれから動きますが、来年に発注を控えている管理組合は検討会の結論を待てません。以下は、いま使える材料だけで組んだ手順です。

設計・監理方式で理事会が手放してはいけない8項目

設計・監理方式そのものは、国交省も「適切な情報を基に透明な形で施工会社の選定を進めていくためにも有効」と位置づけています。問題はコンサルに任せる範囲です。次の8項目は、どれも理事会か修繕委員会の側で握っておく必要があるものです。

1. コンサルは3社以上から選び、工事とセット契約の提案は外す。2017年の国交省通知の取組事例には、設計費が安い2社が「工事とセットでの契約が条件」だったため選定しなかった管理組合が出てきます。設計料だけ安い提案は、工事費で回収する前提の可能性があります。

2. 技術者の在籍を会社案内ではなく名簿と資格証で確認する。同じ通知の指摘事例には、パンフレットでは技術者多数とうたいながら実際は社長と事務員1人で、調査診断を施工会社の社員がやっていたコンサルがあります。担当者の建築士免許の写しを求めて断られるようなら、その時点で候補から外して差し支えありません。

3. コンサル契約書に、施工会社からの金銭受領を禁じる条項と、違反時の解除・返金条項を入れる。今回の事件で公取委が確認した「手数料等」は、まさにこの経路です。契約書に書いてあれば防げるという話ではありませんが、書いてなければ問うこともできません。

4. 設計予算の数字を知る人を理事会内で限定し、コンサルに渡す資料から外す。公取委が認定した3つの手順の起点は設計予算の漏えいでした。見積りを取る前に「いくらまで出せるか」をコンサルと共有する実務は多いのですが、共有する場合でも、総会で承認された予算上限ではなく、理事会が内部で持つ目標額は別に管理します。

5. 施工会社はコンサルの推薦リストだけで決めず、公募を併用する。国交省の取組事例には、専門紙で公募して5社に現場を案内し、見積金額・実績・工事内容・会社規模・アフターケアを比較して役員が1社に絞り、臨時総会で承認した管理組合があります。公取委が問題にした手口は、参加社の顔ぶれをコンサル側が決められることで成り立っていました。公募は、その前提を崩す一番簡単な方法です。

6. 見積書は法定福利費を内訳明示した書式で出させる。国交省は2017年の通知でも2023年4月の通知でも、法定福利費が内訳明示された見積書を参考に、法定福利費相当額を適切に含んだ額で契約するよう求めています。内訳が細かい見積書ほど、社ごとの数量と単価を突き合わせやすくなります。談合で価格を揃える側にとって、細かい内訳は面倒な要求です。

7. 請負契約に談合違約金の特約条項を入れる。国交省は2025年6月26日付の事務連絡で、談合が認められた場合に受注者が請負代金額の一定割合を違約金として払う特約を、マンション修繕工事の契約にも設定できると周知しています。国の直轄工事では請負代金額の10分の1、首謀者ならさらに100分の5が加わる水準です。48戸の例で工事費が5,040万円なら、10分の1は504万円。条項を入れるだけで談合がなくなるわけではありませんが、公取委の命令が確定した後に管理組合が請求する根拠になります。設定にあたっては弁護士に相談するよう国交省自身も付記しています。

8. 契約前に住まいるダイヤルの見積チェックサービスを通す。住宅リフォーム・紛争処理支援センターが建築士による見積りのチェックを無料で行っています。国交省が2017年、2023年、そして今回の2026年9月28日と、三度にわたって管理組合に案内している窓口です。使わない理由がありません。

見積書は国交省の構成比で割って読む

相見積もりが機能しているかを見るには、各社の総額を比べるだけでは足りません。国交省の令和3年度実態調査(200社818件)は、総工事金額の内訳を建築系工事60.3%、仮設工事22.8%、諸経費10.3%としています。建築系工事の内訳では、外壁塗装・外壁タイル・シーリングをあわせた外壁関係が49.4%、屋根防水と床防水をあわせた防水関係が32.0%です。

48戸の例で、戸あたり105万円と置くと(実態調査では100〜125万円/戸の帯が最多です。105万円は設定上の仮の数字です)、総額は次のとおりです。

48戸 × 105万円 = 5,040万円
仮設工事の目安:5,040万円 × 22.8% = 約1,149万円
建築系工事の目安:5,040万円 × 60.3% = 約3,039万円
うち外壁関係:3,039万円 × 49.4% = 約1,501万円
うち防水関係:3,039万円 × 32.0% = 約972万円

この比率から大きく外れている項目があれば、そこが「なぜその数字か」を各社に質問する入口です。たとえば仮設工事だけが3社とも総額の35%を超えているなら、足場の数量の前提が揃えられている可能性を疑えます。逆に1社だけ防水の数量が極端に少なければ、2017年の通知にある「特定の1社にだけ少ない数量を伝えていた」事例と同じ形です。なお、実態調査の工事金額には共通仮設費と消費税が含まれていません。見積書と比べるときは、見積側からその2つを抜いて比率を出してください。

積立金が足りないときの借入と、認定を取る順番

見積りが適正でも、積立金が足りなければ発注できません。48戸の例で、修繕積立金の残高が3,100万円だとします(設定上の数字です)。

不足額:5,040万円 − 3,100万円 = 1,940万円
一時金で賄う場合:1,940万円 ÷ 48戸 = 1戸あたり約40万4,000円

一時金が現実的でないなら、住宅金融支援機構の「マンションすまい・る融資」(マンション共用部分リフォーム融資)が選択肢になります。2026年10月の融資金利は、返済期間10年以内で年2.76%の全期間固定です。借入金100万円あたりの毎月返済額は、10年返済・元利均等で9,545円と機構が公表しています。

2,000万円を10年で借りる場合:9,545円 × 20 = 月19万900円
1戸あたり:19万900円 ÷ 48戸 = 月約3,977円

ここで効いてくるのが機構の融資条件です。毎月の返済額は、毎月徴収する修繕積立金の80%以内でなければなりません。月19万900円を返すには、積立金の月額合計が19万900円 ÷ 0.8 = 23万8,625円以上、1戸あたり約4,971円以上必要です。いまの積立金がこれを下回っていれば、借入の前に積立金の改定を総会で通す必要があります。

金利は、マンション管理計画認定を取得しているか、マンションすまい・る債の残高があれば年0.2%引き下がって2.56%になります。両方そろえば2.36%です。2.56%なら100万円あたり月9,454円なので、2,000万円で月18万9,080円。2.76%との差は月1,820円、10年で21万8,400円です。金額としては小さいのですが、認定にはもう一つ効果があります。2023年4月に創設されたマンション長寿命化促進税制で、築20年以上・10戸以上などの要件を満たす管理計画認定マンションが外壁塗装等・床防水・屋根防水の3工事をすべて行うと、工事完了の翌年度の建物分の固定資産税が各区分所有者について2分の1減額されます。適用は2027年3月31日までに工事が完了したものに限られ、完了から3か月以内の申告が要ります。認定は融資の申込時点で取得済みである必要があるため、来年度に発注するなら、認定の申請を先に動かす順番になります。認定マンションは2026年6月末時点で全国4,083件です。

一棟オーナーは、自分がコンサルの役を引き受ける

管理組合のない一棟アパート・マンションの大規模修繕では、設計予算を知っているのも、参加社を決めるのも、見積書を比べるのもオーナー本人です。今回の事件のような構造的な談合は起きにくい一方、「管理会社が連れてきた1社の見積りで決める」ことが多く、相場との比較そのものが行われないまま契約に至りがちです。前の章の構成比で見積りを割る作業は、そのまま一棟にも使えます。

一棟の場合に加えて確認したいのは2点です。一つは施工会社の建設業許可です。建築一式工事以外で請負代金が税込500万円以上の工事は、許可を持つ業者でなければ請け負えません。外壁塗装や防水の工事で数百万円を超える見積りを出してきた業者が許可を持っていなければ、その時点で候補から外れます。もう一つは税務上の区分です。国税庁のタックスアンサーでは、一つの修理・改良が20万円未満、またはおおむね3年以内の周期で行われるものは修繕費として扱えるとし、区分が明らかでないものは60万円未満か、その資産の前年末取得価額のおおむね10%以下であれば修繕費にできるとしています。大規模修繕はこの基準を超えることが多く、工事項目ごとに修繕費と資本的支出を分けて経費計上する必要が出てきます。見積書の内訳が細かいほど、この仕分けも楽になります。項目の切り分け方は税理士に確認してください。

売主が売る前に整えておく書類と、2026年4月からの変更点

区分所有の住戸を売るとき、買主側の仲介会社は重要事項説明のために管理組合の情報を集めます。宅建業法施行規則では、修繕積立金の規約と積立額、管理費、管理の委託先、そして一棟の建物の維持修繕の実施状況の記録(記録があるとき)が説明事項です。ここに2026年4月1日施行の改正で新しい号が加わり、管理者等が管理組合から委託を受けて管理事務を行うマンション管理業者である場合、つまり「管理業者管理者方式」であれば、その旨を説明することになりました。利益相反の可能性を買主が事前に知るための項目です。

売主としては、管理会社に重要事項調査報告書を発行してもらう前に、次の3つを自分で確かめておくと話が早くなります。一つ目は、直近の大規模修繕の発注方式と、設計コンサル・施工会社の名前です。所有するマンションの工事が公取委の公表した別表に載っている場合、買主側から質問が来る可能性があります。談合の対象だったこと自体は建物の欠陥ではありませんが、「管理組合として業者にどう対応しているか」を総会議事録で答えられるようにしておくのが現実的です。二つ目は、管理計画認定や管理業協会の管理適正評価を取っているかどうか。取っていれば、積立金の水準や長期修繕計画が外部の目を通っていることの説明材料になります。三つ目は、積立金の改定や借入の予定が総会で議題になっていないか。借入があれば重要事項調査報告書に載りますし、改定が予定されていれば買主の資金計画に関わります。売買契約の後に「聞いていなかった」と言われる項目は、だいたいこの3つのどれかです。

修繕の決議は、2026年4月から通しやすくなった

最後に、理事会の運営に関わる法改正に触れておきます。2026年4月1日に施行された改正区分所有法で、修繕など区分所有権の処分を伴わない事項の決議は、全区分所有者の過半数ではなく、集会に出席した区分所有者とその議決権の各過半数で成立するようになりました。あわせて、所在が分からない区分所有者を裁判所の決定で決議の母数から外す制度もできています。積立金の改定や借入の決議が「無関心な不在者の分だけ否決される」状況は、制度上は解消に向かっています。

ただし、決議が通りやすくなることと、通した内容が適正であることは別です。出席者の過半数で発注が決まるからこそ、設計予算の管理、公募、見積りの構成比チェック、違約金特約といった前の章の手順を、総会に諮る前の理事会の段階で済ませておく意味が大きくなります。

大規模修繕の発注、積立金の見直し、売却前の管理組合書類の整理は、どれも一度きりの作業で、相談先が見つけにくい分野です。管理組合の理事として進め方を整理したい、一棟の修繕で相見積もりの取り方から確認したい、売却を前に管理組合の書類をどう揃えるべきか知りたい、という方は、物件の資料を手元にご相談ください。

お問い合わせはこちら

◀ Prev