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残業代込みの年収で、いくら借りられてしまうか。住宅ローンと働き方の話

2026年9月から、労働基準監督署による残業の指導方針が見直されます。これまで一律に「月45時間以内に」と求めていたものが、健康確保措置の履行状況などを踏まえた判断へと変わる予定です。

この話は働き方の問題として報じられていますが、住まいの資金計画とも無関係ではありません。運用が変われば、残業が増える職場も、逆に企業が慎重になって残業を絞る職場も出てきます。そして多くの方にとって、残業代は住宅ローンを組むときの年収の一部になっているからです。

本稿では、残業代を含めるか除くかで借入可能額がどれだけ変わるのかを具体的に計算し、そのうえで住まいの資金計画をどう組み直せばよいかを整理します。

まず、何が変わるのかを正確に

誤解のないよう、制度の話を短く確認しておきます。

今回変わるのは労働基準法そのものではありません。法律が定める残業時間の上限は変わらず、労使が36協定を結んだうえで特別条項を設けた場合の枠も従来どおりです。変わるのは、労働基準監督署による指導のあり方です。

これまでは、適法な手続きを踏んで特別条項を設けている企業に対しても、一律に「月45時間以内に抑えるように」と求めてきました。今後は時間数だけを見るのではなく、健康確保措置が実際に行われているかなどを確認したうえで、それぞれの状況に応じて指導する形に変わります。

つまり、残業が一気に増えると決まったわけではありません。ただ、これまでより企業側の判断の幅が広がることは確かです。増える職場も減る職場も出てくる、というのが実際のところでしょう。

その前提で、住まいの資金計画を見ていきます。

残業代を入れるか外すかで、借入可能額は1,285万円変わる

住宅ローンの審査では、額面の年収をもとに借入可能額が算出されます。そして多くの場合、その年収には残業代も含まれています。

金融機関によって扱いは異なり、直近1年分だけを見るところもあれば、複数年の平均を取るところ、変動部分を割り引いて評価するところもあります。ここでは仕組みを分かりやすくするため、単純化した数字で見てみます。

年収600万円の方がいるとします。このうち135万円が残業代だとしましょう(時給換算2,000円で月45時間の残業を続けた場合に相当します)。

返済負担率、つまり年収に対する年間返済額の割合を35%とすると、次のようになります。

残業代を含めた年収600万円の場合
600万円 × 35% = 年210万円 = 月17万5,000円まで返済可能

残業代を除いた年収465万円の場合
465万円 × 35% = 年162万7,500円 = 月13万5,625円まで返済可能

月々の差は約4万円です。これを借入額に換算してみます。金利1.5%、35年、元利均等返済で計算すると、次のようになります。

月17万5,000円の返済 → 借入可能額 約5,715万円
月13万5,625円の返済 → 借入可能額 約4,430万円

差は約1,285万円です。

同じ人が、残業代を年収に含めるか含めないかだけで、1,000万円以上も借りられる額が変わります。そして住宅ローンの審査は、当然ながら含めた側の数字で通ります。

「借りられる額」と「返せる額」は別のもの

ここが本題です。

金融機関が示す借入可能額は、あくまで審査上の上限です。「この金額まで貸せます」であって、「この金額まで返せます」ではありません。

そして残業代は、自分でコントロールできない収入です。会社が人を採用すれば減ります。業務が効率化されれば減ります。部署が変われば一変します。今回の指導見直しをきっかけに、企業が残業の管理を強める方向に動く可能性もあります。

先ほどの例で、上限いっぱいの5,715万円を借りたあとに残業がゼロになったとします。返済額は月17万5,000円のまま。一方で年収は465万円です。返済負担率は45%を超えます。

これは机上の計算ですが、起こり得ないことではありません。転職や異動、あるいは体調の問題で残業ができなくなるという形でも同じことが起きます。

だからこそ、借入額を決めるときには、残業代を除いた年収で組めるかを一度計算してみる価値があります。除いた数字で無理なら、借入額を抑えるか、頭金を増やすか、購入の時期をずらすか。判断の材料が変わります。

逆に、除いた数字でも回るのであれば、残業代は繰上返済や貯蓄に回せる余剰になります。これは家計としてかなり強い状態です。

共働き・ペアローンの場合はどう考えるか

もう一つ触れておきたいのが、二人で借りる場合です。

収入合算やペアローンを使えば、借入可能額は大きくなります。ただし、変動要素は2倍になります。二人分の残業代が年収に含まれているなら、どちらか一方の残業が減っただけでも計画は揺れます。

加えて、出産や育児、介護といったライフイベントで働き方が変わる可能性もあります。時短勤務になれば残業代はもちろん、基本給の部分も変わります。

二人で借りる場合こそ、「どちらか一人の収入が一定期間減っても返せるか」という視点で組む必要があります。上限まで借りられるからといって、上限まで借りる必要はありません。

いま確認しておきたい3つのこと

これから住まいを買う方も、すでにローンを返している方も、同じ確認ができます。

1. 残業代が年収の何%を占めているか
直近12か月分の給与明細を並べ、残業代の欄だけを合計してください。それを年収で割れば依存度が出ます。1〜2割を超えているなら、意識しておく価値のある水準です。

2. 残業代を除いた年収で、いまの返済額が何%にあたるか
年間の返済額を、残業代を除いた年収で割ります。この数字が30%を大きく超えるようなら、余裕は薄い状態です。

3. 変動金利で借りているなら、金利が上がった場合の返済額
残業代が減るリスクと金利が上がるリスクは、同時に来る可能性があります。金融機関のシミュレーターで、1%上がった場合の返済額を出しておいてください。

この3つの数字が手元にあれば、「なんとなく不安」という状態から、「ここまでは耐えられる」という具体的な線に変わります。

すでに借りている場合にできること

ここまでは、これから借りる方を想定した話でした。すでに返済が始まっている場合はどうでしょうか。

まず、繰上返済には2つのやり方があることを押さえておきます。

期間短縮型は、毎月の返済額を変えずに、返済期間を縮める方法です。支払う利息の総額を減らす効果が大きく、一般に「お得」とされるのはこちらです。

返済額軽減型は、返済期間を変えずに、毎月の返済額を下げる方法です。利息の軽減効果は期間短縮型より小さくなりますが、月々の負担が確実に軽くなります。

残業代が減るリスクに備えるという観点で言えば、効くのは後者です。利息の総額だけを見れば期間短縮型が有利ですが、毎月の返済額が下がっていれば、収入が減ったときに耐えられる幅が広がります。

どちらを選ぶかは、いまの家計に余裕があるかどうかで変わります。残業代を除いた収入でも十分に回っているなら期間短縮型で利息を減らす。余裕が薄いと感じているなら返済額軽減型で月々を下げる。この使い分けです。

金融機関によって手数料や最低金額の条件が異なりますので、実行する前に確認してください。ネット経由なら手数料無料という金融機関も少なくありません。

借り換えという選択肢もあります。ただし、借り換えには登記費用や事務手数料などの諸費用がかかりますので、金利差だけを見て判断すると期待した効果が出ないことがあります。残債と残り期間、そして諸費用を含めた総額で比較する必要があります。

賃貸の場合も、考え方は同じ

持ち家の話が続きましたが、賃貸にお住まいの方にも同じ論点があります。

家賃は手取り月収の3割以内に、という目安を聞いたことがあると思います。ここで確認したいのは、その「手取り月収」に残業代が含まれていないか、という点です。

残業代を含んだ手取りで3割に収まっていても、残業代を除くと4割を超える、ということは起こり得ます。ローンと違って賃貸は住み替えができますが、引っ越しにも初期費用と手間がかかります。余裕がなくなってから動くより、余裕があるうちに水準を確かめておくほうが選択肢は広く持てます。

更新のタイミングは、この見直しに向いています。同じ地域の同じ間取りがいくらで募集されているかを見て、いまの家賃が相場と比べてどうかを確認する。相場より高ければ、交渉の材料にも住み替えの判断材料にもなります。

働き方が変わる前提で、住まいを考える

今回の指導見直しをめぐる議論を見ていると、容認寄りの意見の多くが「もっと長く働きたい」ではなく「働いた分の残業代がきちんと支払われるなら、その方がよい」というものです。

裏を返せば、残業代を前提にしないと成り立たない家計が少なくないということでもあります。そして、その家計の固定費として最も大きいのが、多くの場合は住居費です。

住宅ローンは、35年という長い期間を前提に組みます。その間に、勤務先の方針も、業界の状況も、自分の働き方も変わります。35年前と今を比べれば、働き方に関する常識がどれだけ変わったかは想像がつくはずです。

だとすれば、いまの働き方がそのまま続く前提で上限まで借りるより、変わることを織り込んだ額で組むほうが理にかなっています。

まとめ

9月から変わるのは、労働基準法の上限ではなく、労働基準監督署の指導のあり方です。それでも、運用が変われば残業の量は動きます。

残業代を含めるか除くかで、借入可能額は1,000万円以上変わり得ます。審査は含めた側の数字で通りますが、返済は含めない側の数字でも回るように組んでおく。この差が、長い返済期間のなかで効いてきます。

「何時間まで残業できるか」は自分では決められません。しかし「残業代がなくても住まいの費用を払い続けられるか」は、いま確かめられます。

住まいの資金計画や、いまのローンの見直しについてご不明な点があれば、お気軽にお問い合わせください。

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